ある日

能天気な男は、畑仕事の合間にお昼ご飯を食べていました。そんな男に、嫁はちゃぶ台をひっくり返しご飯を男にぶっかけました。

 

能天気な男は嫁に向かって怒鳴りました。能天気だから自分が怒鳴っていることに何の疑問も抱きません。いつも自分が正しいのです。

 

妻は男を睨み付け何も言わず奥の部屋に向かいました。男はなんのこっちゃと言わんばかりに唖然とし、妻を追いかけることもしません。わずかに床についていないご飯を口にいれてもぐもぐしています。

 

そして能天気な男は着替えようと立ち上がり、寝室へ向かいました。妻のことなんて頭の隅っこにもなく、お気に入りの作業服が汚れてがっかりしていました。

 

男は障子を開けて足を踏み入れようとして足をすくめてしまいました。妻が天井の柱に縄をかけて、首を吊っていたのです。

 

男はおそるおそる近づき、妻の青ざめた顔をそっと覗き込むと、もうだめだ、と思いました。急いで首から縄をほどくこともせずに、ただただその光景をぽかーんと眺めて立ち尽くしています。

 

妻の顔はつるつるしていて青白く、乱れた髪の毛と、はだけた衣服がなぜだか色っぽく見えました。妻にこんな一面があったのか。妻の美しい死に様に見とれていました。どれくらいの時間が過ぎただろうか。

 

我に返った能天気な男は、別にこの女がいなくても自分の生活には何の支障もないと思いました。そして、だれかに見られたままずいと思い、ようやく妻を縄から解放し床に寝かせました。一応、ほっぺたをぺちぺち叩いて名前を呼んでみます。反応がなくぐったりしているので男は庭に穴を掘って埋めることにしました。

 

「はあ、なんで俺がこんなことしなきゃならねんだ。」重い腰を持ち上げシャベルを納屋から取り出し、穴を掘りました。

 

妻が首を吊った理由なんて気にならないのです。死んだ、その事実しか頭にありません。男は妻を抱きかかえました。こんなに軽かったっけ、と思いましたが、誰かに見られることを危惧し、そそくさと穴の中に入れました。土を一気にかぶせました。外から分からないように草も敷きました。そしてポンポンと上で飛び跳ねて土をなじませました。

 

「ふう、一苦労だったなあ。本当に世話の焼けるやつだ。」

冷蔵庫を開けて妻が作り置きしていた佃煮をつまみに、キンキンに冷やしておいたビールを飲みました。

 

「さて、明日はお隣さんからもらったジャガイモの苗を植えないとそろそろ枯れてしまうな。」そう呟いて男は風呂に入って土と垢を流して、さっぱりした体を大の字にさせて、妻が干しておいたふかふかの太陽の香りがする布団の上でぐっすりと眠りました。